2024/06/24 09:37

昨日開かれた、蓮村さんを偲ぶ会/ジェイズバー30周年を祝う会には海外出張のフライトが間に合わず、二次会からしか参加ができなかったので追悼文を事務局にお寄せしました。こちらに再掲いたします。



多くの方が蓮村さんとの個人的な関わりや思い出、ジャパニーズウイスキーの作り手の方たちのネットワークのハブになられた功績についての感謝などについて語られると思いますので、私は蓮村さんの日本のウイスキー業界全体に対する歴史的な功績を声を大にしてここで語り、後世に伝えたいと思います。

誤解を恐れずに言うと、日本でウイスキーに関わるすべての人は、直接的間接的にかかわらず、必ず蓮村さんからの恩恵を受けていると言っても過言ではありません。

なぜなら蓮村さんはSNSがなかった時代から、モルトバーの店主としての立場でウイスキーの魅力を当時まだ珍しかったブログを通じて積極的に世に伝えることで、ウイスキーを飲むこと、ウイスキーのボトルを買うことのハードルを大きく下げ、ウイスキーを飲む世代を若い方たちにも広げられたからです。情報の発信量の多さでは、日本のバーテンダーの中で頭抜けていらっしゃいました。

ウイスキーがこれほど日本で人気になったきっかけはたくさんありますが、その中で忘れられがちなことの一つにSNS時代が来る前のブログによる情報発信がありました。

最近わたくしも存じ上げている某有名ウイスキーブロガーがブログをやめると投稿し、多くのバーテンダーやウイスキー愛好家が悲鳴に近い声をあげたことからもそれは明らかです。そのブロガーの方も、モルト侍のブログは本当に参考になったとおっしゃっていました。

あるボトルがどこのバーで飲めるのか、どれぐらいの評判なのか、自分の好みに合いそうなのかなどを瞬時に情報収集できる現在からは信じられないことかもしれませんが、SNSが発達していなかったほんの10年ほど前までは、高いウイスキーをバーで注文することやウイスキーのボトルを買うことは非常にギャンブル性の高い行為でした。

情報が非常に限られていて、飲んでみないと当たり外れがわからなかったからです。

想像していただきたいのですが、あなたは今数万円もするボトルを買うか買わないか、インターネットからの情報が全くない中で瞬時に判断することができるでしょうか。

とても難しいことだと思います。

マイケル・ジャクソンの本やウイスキー大全を読んで最新リリースのボトルがどのようなものか、スペックとインポーターからの資料を見くらべながら想像することぐらいしかできなかった時代には、蓮村さんがコツコツと書かれていたモルト侍のブログは、バーテンダー側からの情報発信という特別性とその情報発信量の多さもあり、ウイスキー好きにとって「闇夜を照らす灯台」のような存在でした。

また、ウイスキーマニアだけが恩恵を受けたわけではなく、蓮村さんのブログを見て初めてモルトバーのドアを開けたという方は、特に若い世代を中心にしてたくさんいらっしゃいます。

ウイスキーが人気がなかった頃のウイスキーは「昭和のおじさんの娯楽」と思われていて今とは比べ物にならないぐらい若い人にとってハードルが極めて高かったのですが、同じくかつては「昭和のおじさん」のものだったサウナ人気が若い世代に爆発的に広がるきっかけとなったマンガ「サ道」と同様の役割を、モルト侍のブログは果たしていたのです。

また、バーに行かなければ情報が限られていた時代、ブログの存在がモルトバーのない街に住む人のウイスキーに対するハードルを大きく下げたことも指摘したいと思います。

これらの意味で、わたくしは今の日本のウイスキー人気と飲み手の層の拡大に蓮村さんが果たされた歴史的な功績を皆さんと思い返すとともに、それにより自らを含めウイスキー業界関係者は蓮村さんから多かれ少なかれ、直接的あるいは間接的に必ず恩恵を受けていること、受けてきたことを僭越ながら改めてリマインドしたいと思います。

リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍などを越えて夜を明るく照らし続けてきた灯台の火が、30周年を前にしてひっそりと消えてしまいました。

消えてはしまったものの、その炎は池袋のビルの2階だけではなく、さまざまなウイスキー好きの心の中のろうそくに引き継がれて日本中で明かりを灯し続けています。そしてその炎は明るさを増して広がり続けます。

蓮村さん、本当にありがとうございました。
ゆっくりお休みください。

駒場蒸留酒販売コマスピ 柳川洋