2024/12/24 19:50
【2024年12月25日追記】
以下に引用したFDFのPDF版のレポートをもとに「第三四半期に輸出額急減」と書いたのですが、FDFのホームページに「HMRC (英国関税歳入庁) は現在、報告システムに誤りがある可能性があるとして、ウイスキー輸出統計の見直しを行っています」と書かれていました。その点を差し引いて以下の記事をお読みください。
イギリスの飲食料品製造者の業界団体、Food & Drink Federationの12月20日付レポートを読んで衝撃を受けました。
スコッチウイスキーの輸出額が大幅に減少しています。
もっと言ってしまうと今年の後半から急減速というかほとんどフルブレーキ状態です。
【スコッチウイスキーの輸出額】
2023年 58億ポンド (前年比マイナス9.5%)
2024年
年初〜3月末実績 12億ポンド(前年同期比マイナス8.8%)
年初〜6月末実績 27億ポンド(同マイナス18.8%)
年初〜9月末実績 28億ポンド(同マイナス36.4%)
昨年が58億ポンドですので昨年の単純平均ペースでは3ヶ月で14〜15億ポンド分輸出されている計算となりますが、ちょっと信じられないのですが今年7月から9月末までの3ヶ月間のウイスキーの輸出額はわずか1億ポンドだそうです。
あまりに衝撃的なのでわたしもデータを3度ぐらい見返したのですが、やはり間違っていません(が英国歳入関税庁の統計システム上のエラーの可能性があります)。
Q1/H1は第一四半期/上半期、YTDは年初来(year to date)を示します。
海外のショップのブラックフライデーセールでもものすごく割引されていたので「やっぱり売れていないのか」とは思っていましたが、数字を見るとびっくりしてしまいます。
上記のYTDの数字に基づき、需要期であるQ4(9-12月期)の輸出額が仮に10億ポンドだとすると、今年の輸出額は38億ポンドとなります。コロナが直撃した2020年と同程度です。コロナという特別な時期を除けば、ウイスキーブーム到来前の14年前の2010年の輸出額まで逆戻りすることになります(Scotch Whisky Associationのインフォグラフィックから筆者作成、2023年の輸出額は56億ポンドとFDFの58億ポンドと若干ズレている)。
上記のYTDの数字に基づき、需要期であるQ4(9-12月期)の輸出額が仮に10億ポンドだとすると、今年の輸出額は38億ポンドとなります。コロナが直撃した2020年と同程度です。コロナという特別な時期を除けば、ウイスキーブーム到来前の14年前の2010年の輸出額まで逆戻りすることになります(Scotch Whisky Associationのインフォグラフィックから筆者作成、2023年の輸出額は56億ポンドとFDFの58億ポンドと若干ズレている)。
Scotch Whisky Associationの9月の発表では、今年上半期の国別トップ10と輸出額は以下の通りでした。
フランス・ドイツへの輸出は前年同期比で3割を超える減少、中国に至っては4割減を超えています。
フランス・ドイツへの輸出は前年同期比で3割を超える減少、中国に至っては4割減を超えています。
日本はマイナス7.5%とまだマシな方ですが、改めてデータを見ると日本のスコッチウイスキーの輸入額はシンガポール、台湾を足した額の3分の1にしか過ぎないことがわかります。そりゃいいリリースも台湾シンガポールに行きますわ。
(単位 百万ポンド、%は前年同期比)
- アメリカ 421.4 -3.5%
- フランス 158.5 -32.6%
- シンガポール 128.0 -22.3%
- 台湾 117.1 -21.5%
- インド 105.7 +11.9%
- 日本 80.0 -7.5%
- 中国 77.9 -42.4%
- ドイツ 63.5 -30.3%
- UAE 61.3 +0.1%
- スペイン 61.1 -24.9%
スコッチウイスキーの最大市場であるアメリカは、上期までは前年同期比微減で済んでいたのですが、FDFのデータだと9月末時点では前年同期比マイナス23.2%と年後半に入って急減速。インドとUAEを除けばグローバルに大きく需要が減少しています。
ドイツの経済は今年はマイナス成長、フランスは1%程度の経済成長なのに物価は2%以上上がっていて、贅沢品であるウイスキーを買う余裕がなくなっている状態です。中国は言うまでもないでしょう。アメリカも物価高の影響が出ているとみられます。また年明けのトランプ政権発足後は輸入品に対する関税が増える可能性もあり、スコッチからバーボンへの切り替えも予想されます。
ドイツやフランスのウイスキー愛好家は自宅でボトルを買って仲間と飲むことが多いため、すでにある程度のストックを持っていれば無理して追加して買う必要もなく、実質所得が下がる中で買い控えが起きていると考えられます。
日本はそれ以外の国と比べると健闘している状況ではありますが、それでもマイナス7.5%。日本のウイスキーメーカーがブレンデッドウイスキー(もしくは「なんちゃってジャパニーズ」)を作るためにスコットランドからバルクウイスキーを輸入している分があるため、減少額が少ないように見えている可能性もあります。
日本ではバーでウイスキーを飲む文化があるので、家飲みが多いヨーロッパ市場と比べるとまだ底堅い部分があるかもしれません。
日本だけが今後も健闘したとしても、上記の数字からわかるように残念ながら日本のスコッチウイスキーの市場規模は中華圏(中国+シンガポール+台湾)のわずか4分の1、フランスとドイツを合わせたものの3分の1強にしか過ぎないため、スコッチウイスキー市場全体に与える影響は限定的になってしまいます。
このように需要が急減するなか、2025年のウイスキー市場がどうなっていくかを考えてみました。
1. 海外の需要が急減したことでニューリリースの数が全体的に減る、特に高額ボトル
2. 雰囲気だけで割高に値付けしていたボトルの売れ行きが急激に悪化する
3. 高くて美味いボトルから安くて比較的美味いボトルへの需要が相対的に増え、その需要に応えるために安ウマボトルが多くリリースされる(と売り手はキツいが飲み手はハッピー)
4. これから実質賃金が上昇する可能性の高い日本ではスコッチウイスキーに対する需要は他の国よりも底堅い
5. ここ数年のウイスキーブームで美味しいウイスキーを飲んで味を覚えたファン(特に収入が増えている若年層)が増えたこともあり、「ちゃんとしたウイスキー」に対する需要は比較的底堅い
5. ここ数年のウイスキーブームで美味しいウイスキーを飲んで味を覚えたファン(特に収入が増えている若年層)が増えたこともあり、「ちゃんとしたウイスキー」に対する需要は比較的底堅い
を予想します。
コマスピのようなフットワーク軽くてしがらみがほぼないショップにとってはむしろチャンスかも、とも思ったりもします。
いいニューリリースが少なくなると、2024年よりも2025年は売上下がってヒマで退屈になるかもしれませんが、一人ブラック企業で固定費も限定的なコマスピは、売上高を確保するために無理にボトル買って無理に売るようなことはする必要もなく、問題なくやっていかれるはずだと思っています。
樽を買うのに半額の手付金を払い、ボトリングするときに残りを払うのが一般的なのですが、高値で買ってしまったいい樽を手放す人がいて買うチャンスがあれば、などと夢想したりもしてしまいます。いいものが出てきたときに買い下がる余裕を残しておきたいです。
そして私だけではなく、「日本人はいいボトルはどんなマーケット状況でもしっかり買うんだな」と改めて世界中の人に思い知らしめたいです。
そして私だけではなく、「日本人はいいボトルはどんなマーケット状況でもしっかり買うんだな」と改めて世界中の人に思い知らしめたいです。
まだちょっと早いですが、2025年がすべての方にとっていい年になることを心からお祈りしております。
今年のご愛顧、本当に感謝しております。
コマスピ 柳川
今年のご愛顧、本当に感謝しております。
コマスピ 柳川